コレクション: 川喜田半泥子

1878年に大阪で生まれ、三重県津市で実業家として活躍した川喜田半泥子は、財界人であると同時に、多才な芸術家として知られています。百五銀行の頭取や数々の企業経営を担う一方で、陶芸、日本画、書、版画、油彩、写真、俳句など幅広い表現に挑戦し、その卓越した感性を発揮しました。

本格的に作陶に取り組み始めたのは50歳を過ぎてからのこと。千歳山に自ら窯を築き、荒川豊蔵や金重陶陽、三輪休和らと交流しながら、独自の茶陶を生み出しました。肩書きや形式にとらわれない自由奔放な作風は、趣味の域を超えて当時の陶芸界に大きな革新をもたらし、現代陶芸の礎のひとつとなりました。

半泥子の茶碗や花器は、時に豪快に、時に洒脱に、茶の湯の美意識と人生観が重なり合う独特の存在感を放ちます。その造形は大胆でありながら温かみを持ち、ユーモアさえ感じさせるものです。「茶碗一つに宇宙がある」と評されるように、作品からは深い思想と豊かな人間性が伝わってきます。

1963年、84歳で生涯を閉じるまで旺盛な創作意欲を保ち続けた半泥子。陶芸史に刻まれたその名は、今もなお「昭和の茶陶を変えた巨匠」として輝き続けています。