コレクション: 3代 徳田八十吉

1933年、石川県に生まれた徳田八十吉は、九谷焼の世界に革新をもたらした陶芸家です。従来の九谷焼が山水や人物、花鳥風月といった絵柄を中心にしていたのに対し、彼は色彩の調和そのものを主題とし、独自の表現「彩釉(さいゆう)」を確立しました。およそ70色を使い分け、濃淡のグラデーションだけで作品を構成するその技法は、九谷焼に新たな美の境地を拓いたといえます。

焼成温度にも工夫があり、一般的に900℃前後とされる上絵の焼成を1000℃前後で行うことで、深みのある色調を実現しました。とりわけ紺系の色釉を基調とした作品は、濃淡の移ろいが織りなす奥行きと静謐な美しさを漂わせています。形状はロクロ成形や面取成形を駆使し、壺や鉢をはじめ多様なフォルムを生み出しました。

1971年、日本伝統工芸展で「彩釉鉢」がNHK会長賞を受賞し注目を集めると、1977年には「燿彩鉢」で日本工芸会総裁賞を受賞。その後も国内外で個展を開催し、1988年に三代八十吉を襲名しました。1993年に紫綬褒章、1997年には「彩釉磁器」で重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定され、日本を代表する陶芸家として確固たる地位を築きました。

晩年には大英博物館にも作品が収蔵されるなど国際的な評価も高く、2009年に逝去するまで常に新しい色彩表現を追求しました。徳田八十吉の作品は、九谷焼の伝統に現代的な感覚を融合させた唯一無二の美として、今も多くの人々を魅了し続けています。